「フェティッシュ」西澤保彦

フェティッシュ
西沢 保彦著
集英社 (2005.10)
通常24時間以内に発送します。
久々に手に取った西澤さんの作品ですが、面白い!人を狂わせる、渦のような存在を描くサスペンスやミステリは数多くあれど、ここまで「モノ」としての魅力、カタチ、外見のみに特化して、すなわちフェティシズムの対象としての「ファム・ファタール」(クルミは男性のなのでこの言葉は本来適切ではないが、そのメンタリティが限りなく蹂躙される側に立たされた場合の女性に近く描かれている気がするので、敢えてこう書く)を描ききっているのは、希有なのではと思ったりする(あくまで自分の知識の範囲内であるが)。西澤さんって、お会いしたことあるんですけど、本当に穏やかで優しくて紳士で、いい人なんですよー。その真面目そうな西澤さんが、このように人間としての何かを見失っているキャラをイキイキ描けるというのは、いつものことながら本格ミステリ界の七不思議かと思ってしまうわけなんですが(笑)。ともかく、変態がいっぱい出て来て、迫力あります。そして、インモラルな刑事を描かせると、少なくとも本格ミステリ系の作家さんの中では、多分西澤さんは第一人者(笑)
「夢幻巡礼」の主人公だった殺人狂刑事にも似ていて、自分的にはぞくぞくする魅力を感じました。

「グラスホッパー」伊坂 幸太郎

グラスホッパー
伊坂 幸太郎著
角川書店 (2004.7)
通常24時間以内に発送します。
相変わらず、どこまでも個性的なキャラが絡み合う伊坂節、堪能しました。
陽気なギャングが地球を回す」でも感じたことですが、伊坂さんは存在感のあるキャラを造形するのに、独特の方法論を持っておられるような気がします。数々の特徴、特性、特技を付け足し付け足し複雑化させるのではなく、逆に分解して単純化していくことによって尖鋭化し(例えば、この作品に出てくる「押し屋」とか、「陽気なギャング〜」に出てくる演説の名人とか)、そこから連想されるキーワードで個性を膨らませていく、そんな感じ。ともかく、独特の方法で人を殺す裏稼業の方々が裏に表にバトルを繰り広げる様は、先日読んだ都筑道夫氏の「なめくじに訊いてみろ」にも通じる面白さがありました。しかし、鈴木くんってば主役(なのかな?)なのにいまひとつ影が薄いというか何もしてないというか(その意味では狂言回しに過ぎないのか)、少し惜しい気がします。ラストはなんか腰砕けだし(笑)

「沈黙博物館」小川 洋子

沈黙博物館
沈黙博物館
posted with 簡単リンクくん at 2006. 2.28
小川 洋子著
筑摩書房 (2004.6)
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人の肉体の存在した証、形見を収集する博物館と、それを作り上げんとする老婆と博物館技師、その周囲の人々の物語。「形見」として収集される品々はどれもグロテスクで、その死に様までもが克明に記録と保存をされていく。きわめておぞましく、ネガティブで陰気なテーマの物語のはずなのに、それでも全体的に何故か透明で美しいお話に仕上がってるのがとても不思議。おそらく小川さんは、死もまた人の営みの一部、世界を構築する欠かせない部品であり、そういったものを含めて世界は美しいと信じておられるのだろう。
それにしても、人の死を収集するという作業の、なんと空虚なこと。人は必ず死に、いつか忘れ去られていく。そのことを眼前に突きつけられながら日々を生きると言うことは、相当にしんどく、自らの存在の危うさ、無力感にさいなまれなる仕事だと思うのだが。だがしかし、この作業こそは、その人の生の虚無なること、死して消えゆく人の定めに対する、ささやかな抵抗なのかも知れない。
ともかく、悲しく寂しくなるほどに美しく、冷たく透き通った物語でした。なんともいえない、不思議な読後感。