意外と濃い読書

 うわ、気がつくと前回の更新から三ヶ月近く。しかし、その巻の読書は結構密度が高かった気がします。ちなみに、前回更新時に書いた「今年は30冊は超えたい」という目標?は超えました。現在32冊。ただ、今呼んでいるのがソローキン「青い脂」なのですが、これがなかなか読み進まない…年内に読み切れるかどうかも微妙。リプス同志の仲間に入れる日はいつでしょう。

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)

屍者の帝国」を読む前の予習…というとても失礼な動機で手に取り、かつ俺自身がハードなSFが苦手なためになかなか読み進めませんでしたが、なんというか詩的で、美しくも楽しい連作短編集でした。というか緻密な短編風エピソードで構成された長編?いずれにしろそんな区別は意味がないくらい相互の章がきれいに折り合わされ、美しい。無論、個々話を短編として読んでも、面白いのですが。時間とか空間の連なりを、こんな風に詩か音楽を紡ぐように綺麗に物語に出来る才能に脱帽。さすがは芥川賞作家。
屍者の帝国

屍者の帝国

で、伊藤計劃さんという惜しい天才の遺作を円城さんが引き継いで書き上げた長編がこちら。俺ごときの説明は不用ですね。屍者を用いたテクノロジーが高度に根付いた19世紀、という異様にテンションのあがる設定の中に、ミステリ好き・小説好きならよだれが出そうないろんな小道具を詰め込んだ贅沢なお話。生とは、死とは、意識とは、魂とは…そういう難解なテーマについて行け無くとも、この宝石のようにちりばめられたキーワード群だけでもご飯3杯いけます。美味しかった。
カラマーゾフの妹

カラマーゾフの妹

で、「屍者の帝国」でも重要なキーパーソンだった「カラマーゾフの兄弟」の主人公アレクセイ・カラマーゾフですが、奇しくもカラマーゾフつながりで次に手に取ったのがコレ。ちなみに、江戸川乱歩賞の受賞作を追っかけなくなって久しいのですが、コレは手を出さずにいられませんでした。ちなみに「カラマーゾフ〜」原典は、中学生の時に第1部で挫折したままなのですが、そんな中途半端な俺でも楽しめます。しかし、コレに乱歩賞を与えるのはなかなか英断だと思います…パスティーシュ的作品を賞の俎上に並べる、ということもさることながら、コレ、ドラマ化とか多分無理でしょう(笑)スポンサーの都合に左右されない、作品自体の魅力で評価する素敵な審査員さんの姿勢。素晴らしい。この話も、「屍者の帝国」同様いろんな美味しい小道具や小ネタが仕込まれていて、それだけでもかなり楽しめるのですが、無論事件の真犯人も衝撃的。というかよく考えればたしかにこの人しかいないわけですけど、逆にこの人であってはならんという先入観に誰もが騙されているという。
 傑作でした。

生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント (文春新書 868)

生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント (文春新書 868)

 大変濃い味つけの読書が続いたので、ちょっと軽めの本を。ってサイバラさんの人生は全然軽めではないわけですが。それでも諸々の苦労をさらっと馬鹿話ではなせてしまうのだから、やはりスゴイ人ですこの人は。そのサイバラさんが語る人生訓が、面白くないわけがない。でも、タイトルが「悪知恵」なのは実は看板に偽りありかも。たしかに毒のある言葉で語られてはいますが、アドバイスの中身はしごく全うな正論だったり、サイバラさんの苦労からにじみ出た優しさにあふれていたりするんですもの。ちなみに、もっともウケたのは綾辻行人さんの相談(どうすればモチベーションを維持できるか)への答え「借金があること
」でした(笑)大爆笑。
毒 POISON ポイズン (集英社文庫)

毒 POISON ポイズン (集英社文庫)

 木曜ミステリードラマで、なんとピースの綾部が主演で実写化されたのですが、なかなか面白いので普段は読まない赤川次郎さんの本を手に取ってみました。原作は、なかなかに古いのでやはり微妙にあちこち実写化の際には改変されてますねえ。しかし一番の変更点は、綾部演じる松井が原作では化学バカの老学者だったりするところ。…まあ、大胆なアレンジではあるけれども、面白くなってるんじゃないでしょうか。原作にないエピソードも多いけど、結構見入ってしまうし。ちなみに、ドラマでは毒は松井が殺意を抱く人間にメフィストフェレス的に手渡す形ですが、原作ではひょんな偶然から毒そのものが運命に導かれるように人から人へ渡り歩いていきます(その経緯は少し無理がある気がするけど…)これはこれで、面白いです。

 冒頭で書いたように、ここ三ヶ月結構密度の高い読書だったわけですが、その割には冊数が育ったので(まあ、ここ数年の壊滅的な読書量にしては、ですが)、ちょっと嬉しい。ですが、ここで「青い脂」が巨人のように立ちはだかっている…(笑)面白いけど、あの奇妙奇天烈な造語の山になかなか慣れず、冬山登山でもするみたいに足場を探して読み進んでいる感じ。スピードは上がらない。でも、この独特の世界観と文体に振り回される感じは、なかなか味わえない不思議な読書体験です。癖になりそう。