「キリンヤガ」マイク・レズニック 内田昌之訳

キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)

キリンヤガ (ハヤカワ文庫SF)

 この名作が、BK1ではもう取り扱いされておらんらしい。悲しいかな。
 それはともかく。
 読み始めて前半は、キリンヤガでの人々の素朴な暮らしと美しい自然、コリバの語る寓話に秘められた深い真理に、人は科学の発展の中でいろいろなものを得たが、その代価に何を失ったんだろうかと、しみじみ感じたものだった。が、後半、些細なきっかけからキリンヤガの秩序が乱れ始めるのを見ると、結局のところ、人は一度来た道を無理矢理に引き返しても、そこが元いた故郷と同じモノではあり得ないのだ、ともっと切なくなった。
 一番胸に刺さったのはやはり「空にふれた少女」だったが、結局、この物語のテーマもここに帰結していくのではないかという気もする。
 一度空に触れたら、もしくは、一度エデンの林檎を口にしたら、それなくしては生きられないのだ。鳥も、人も。