吉村達也さんはマタンゴがトラウマらしい

なんか、朝日新聞に載っていた吉村達也さんのエッセイで、「子どもの頃に観た『マタンゴ』がものすごく怖かった。映画見終わった後、アイスクリームを買うときに手が震えた」とか書いていらしたらしい(自分は読んでいないので文章の細部違うかも)。それを読んだ妻が、「マタンゴはそんなに怖いのか」と問うので、一緒に鑑賞することに。しかしまあ、妻の方は序盤で寝てしまいましたが。まあ、ホラーはホラーでも絶叫系というよりはじわじわサスペンス系ですからね…*1

マタンゴ [DVD]

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ともかく、秀逸です。救援が望めない絶望と飢え、相互不信によってじわじわと追いつめられていく遭難者たち、その隙間で怪しく姿を垣間見せる「マタンゴ」人間たち、そして一人、また一人とマタンゴを口にしてヒトでなくなっていく者たち。極限状態での醜い人間ドラマに、「ヒトでなくなる」という究極の切り札を用意することによってもたらされる、静かだが蠱惑的きわまりないカタストロフィ。そして、全てが終息したかと思われるラストに、不気味に提示される現代社会への疑義。傑作です。そこに加え、男を手玉に取る悪女役の水野久美がまた、美しくて色っぽくてもう大変なのです(笑)。無人島で遭難しているのにどうしてそんなに濃く化粧できるんだとかいうようなツッコミは、水野様の妖艶さにかき消されてしまうのです。
ちなみに、怪物としてはマタンゴ人間は怖くないです(グロテスクではあるけど)。何をしたいのかよく分からず、動きも緩慢なので襲いかかってきてるのかただ寄ってきているのかよくわかんないし。コワイのは、この状況ではおそろしく身近に感じられる、「ヒトを捨てること」への誘惑。だがしかし、ラストシーンで「今の世の中で、ヒトであることに何の価値がある?」とこの物語は我々の鼻先に切っ先を突きつけてくるのです。今の日本特撮・ホラー映画も、ただCG使いまくって豪華なものを作ったり、絶叫やねちょねちょどろどろばっかり見せつけるものより、こういう人間のシンプルな部分を揺さぶるような作品がより量産されればいいのに、と思います。
時に、また時代を反映してマタンゴ発生の理由は放射能による突然変異。この時代、怪物誕生の理由は全部放射能(笑)。まあ、それだけ原爆や水爆実験の記憶、核の恐怖が身近だったんでしょうね当時は。記憶が薄れ、核兵器とか原発とか、身近すぎるほど身近にあふれかえっているのに、その脅威や恐怖はまるで実感できない現代の我々より、ずっと健康的な反応かもしれないっすね、なんて思ってもみたり。

*1:終盤はなんとか目を醒まして鑑賞。結局翌日になって、再度最初から再鑑賞。ラストはやっぱり怖くて面白かったらしい