「死神の精度」伊坂 幸太郎

なんというか…死というものを徹底的に客観化すると、むしろ世界は透明感を増す、という感じの短編集。どの話も、切なくて美しかった。人間の死というものに全く感情を動かされない死神・千葉の視点で描かれるからこそ、死を通して、より生の素晴らしさが際だつ。自分的には、一番最後の「死神対老女」が、一番涙腺にキタ。ああ、これまで千葉が見届けた死は、いや生は、どれ一つとして無駄ではなかったのだと。
すごいと思うのは、そういう「生きること」が素敵なことだ、というきっと数多の作家が無数の手法で描こうとしてきた想いを、伊坂さんは、作品内のどこにも――登場人物の口を通してすら、一切具体的に書き込むことなく、ただ、個々の物語を淡々と描くことでやってのけていること。
伊坂さんの作品を読むたびに思うことだが――これもまた、天才のワザだ。神懸かりめくが、この物語を読むと、死ぬことが怖くなくなってくる。それは、死ぬこともまた生の一部であり、それも含めて生きることの素敵さを存分に味わってやろう、そう思えるのだ。
 しっかし、「デスノート」に出てくる死神とは、えらい違いだねえ(笑)。

死神の精度
死神の精度
posted with 簡単リンクくん at 2005. 7.11
伊坂 幸太郎
文芸春秋 (2005.6)
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