それはともかく、図書館がテーマということで、元図書館員であった俺には馴染みが深いテーマでして。ここに描かれている図書館のあり方や、表現の自由や個人情報の取り扱いについての図書館という組織の立ち位置は、まあ設定が設定だけに誇張があったりカリカチュアライズされている感は否めないけど、現実でもまるっきりこの通りなのです。
で、真面目に図書館員としての責務を果たそうと努力すればするほど、「図書館の自由に関する宣言」とか「ユネスコ世界図書館宣言」の存在を知らず知ろうともしないバカと、不毛なバトルを繰り広げる羽目になるのも一緒。今は、行政の財政難も後押しして、もっと立場が危うくなっているっぽい。まあ、なくても死なないのが図書館ではあるんですけど、やっぱり教育は未来への財産と考えて、きちんと最低限投資すべき施設だと、図書館を離れた今でも強く強く思いますですよ俺は。
で、作品の感想に戻りますが、ネタがやはり少し地味なので、「空の中」とかに比べると、展開のサプライズや巨大な感動というものは少し落ちます。結末部分で分かる「正義の味方」の正体も、早くから見当はつくし。ですが、後書きによると「小説で月9」が当初の目的だったらしいので、その意味に置いてはしっかり完成されています。やっぱり巧いなあこの人は。