マシニスト

微妙にネタバレめきますー。まあ、愉しみを損なうほどではないけれど、未見の方はご注意を。
マシニスト [DVD]
365日眠れないと人間はどうなるか、というような惹句と、ほとんど骨と皮で死体のごとき有様にまで痩せたクリスチャン・ベールのスチールに引きつけられ、ほとんど前情報なしに手に取ったこの作品。
妄想と現実がごちゃまぜになったような作りの映画なので、どうやら観客を選ぶらしく、ネットでの感想も賛否両論。しかしまあ、「眠れないとどうなるか」という惹句には少し語弊があるような気が。正確には、「眠れなくなるほどの秘密を抱えたとき、どうなるか」だ。
サスペンスもしくはミステリーとしては、そうたいしたこともない。オチは宣伝されているような「驚愕の真相」なんかではないし、わりと早い時期に見当がつく。途中、謎のパズルが出てくるが、その謎解きもいささか牽強付会な感じがして、本格ミステリ者の俺としては相当に物足りない。だが、この映画のポイントはそんなところではない。きちっと統一された色彩の、この上なくスタイリッシュな映像美の中で展開される軋み歪んでゆく日常、妄想と日常が交差の後に訪れるカタストロフィ、そして真相が明らかになった後の残酷な平穏。それらの中に自然に満遍なく織り込まれた詩情。孤独、罪、後悔、不信……様々なキーワードが散りばめられた、醜くも美しく、苛烈にして優しい無惨絵。そんな感じ。
それでもまあ、あそこまでクリスチャン・ベールが激痩せする理由は、物語展開上なかったような気もするんだけれど、彼のあの姿こそ彼の目から見る「現実」そのものが痩せて枯れて捻れてゆく様の象徴のように思えるし、あの演技に尋常ならざる迫力を与えているのは事実だし、彼とベッドを共にする女性たちの「あなたそれ以上痩せたら消滅しちゃう(死んでしまう)」とか印象深い台詞があったりと、映画にとってはかなりの彩りとなっているので、良しとしましょう。
思わぬ拾いものな逸品でした。