たしかに切ないけれど

遡及更新中。なので、書いてるのは11月5日です。
同性愛を描いた映画としては大健闘ということらしい、オスカーノミネート作品の「ブロークバック・マウンテン」を鑑賞しました。もともと、やおい好きの妻とその妹が観たいというのでDVDを入手したのですが、俺も密かに楽しみにしていたのです。

俺にはそっちの気ははっきり言ってありませんが、そんな俺でも「同性愛者のみなさんに偏見を持つのはやめよう」と認識を改めた映画が、トム・ハンクス主演の「フィラデルフィア」。何をどのように愛そうと、愛し合う相手や恋をする対象が誰であろうと、人間の尊厳は変わらない。そのことを教えてくれたのが、「フィラデルフィア」でした。
なので、同性愛を描いた映画っていうのは、どうしても「フィラデルフィア」と比べてしまう悪癖があるのですが…
うーん。
妻たちは、この映画が大変気に入って、切ない切ない言うてるのですが、俺はそれほどでもなかったなあ。
たしかに、同性愛がはっきりと差別や迫害の対象となる風土の中で、互いに家庭生活を営みながら、長い間愛情を育む様は、二人の出会いの場にして密会の地であるブロークバック・マウンテン雄大な自然の中で、美しく勿論切なくもあるわけですが、イニスとジャック、二人の姿を見ててもなんだか堪え忍んでいる感じがしない。
特にイニス。共に暮らそうというジャックの提案をはねつけ、自分の都合をひたすらジャックに押しつけ続ける。そのくせ、ジャックと密会となるや、妻や子どもの顔もロクに見ず飛び出していく。単にジャックを「都合のいい男」にしてなおかつ家庭もないがしろ。
ジャックはまあ、愛情表現が素直なので、それなりに可愛かったり可哀相だったりするわけですが、イニスに逢えない欲求不満はしっかり別の場所で解消してるっぽいし…
これだったら、「マディソン郡の橋」の、クリント・イーストウッドの車の後ろに夫と二人でぴったり付けてしまったときのメリル・ストリープの方が、ずっと切なくて泣けたなあ。そういう意味では、俺が観ていて一番切なかったのはイニスの奥さんアルマの方でした。イニスとジャックの関係を知りながら、訊ねられない、ただ堪え忍ぶ姿。
これはまあ、お国柄によっても違うのかもですが、やはり恋愛の真髄は忍ぶことにあり。
いかに堪え忍んでいるかが、切なさを掻き立てるのだとすれば、少し物足りない感じでしたねえ。
まあ、映像的には最上級に美しいし、トータルで観ればやはり傑作だと思います。ラストシーンはやっぱり泣けるし。