「ちーちゃんは悠久の向こう」日日日(あきら)(bk1)

ちーちゃんは悠久の向こう (新風舎文庫)
 面白かったです。だけど、以前BBSにも書きましたが、乙一の作品に初めて触れたときのような衝撃はなかったなあ…いささか失礼な物言いなのは自覚していますが。ただ、どうしても、「高校生の天才作家」というフレーズで売り込まれた場合には、若干眉に唾をつけて見てしまうのは確かなのです少なくとも自分としては。
 そういう部分を取っ払って感想を申し上げますと、繰り返しになりますが素直に面白かったです。ちーちゃんとモンちゃんも白さんもそれぞれ悲惨な部分を抱えつつ健気に愛嬌たっぷりだし。 小説としては話の運びといい文章といい微妙にたどたどしいのですが、そこがまた高校生の一人称らしさと、その年齢ならではの感情処理の不器用さ、世界への畏れを表現するのに役立っていて、とてもいい雰囲気です。ただ、このたどたどしさが、計算された技術によるものなのか、たまたま未熟な部分が怪我の功名的にプラスに働いているだけなのか…それによって、この作家の評価は変わってくると思います、10年後、同じような世界観で小説を書いたとき、同じテイストを異図して出したり出せなかったりするか…そこで真価が問われるのではないでしょうか。
 まあ、あくまでこれは、俺個人がこの作品単品を読んで思うことなので、他の作品を同時に読んでらっしゃる方にとっては、もう彼の評価は定まっているのかも知れないですし、全作品を総合的に見れば手放しで「天才」と呼べる階梯に達しているのかもしれないですが。
 ただ、言えることは、俺が小説を書き始めたのは中学生のときですが、俺の高校生の時のレベルからすると日日日氏は雲の上の人ですし、この若さにして複数の賞をゲットしてデビューしているのと三十路半ばに迫り「『昔小説家を目指していたオヤジ』になるかならないか」の瀬戸際で這いずり回っている(しかも、しかるべき努力をしているとは言い難い)俺が何を言っても、それは負け犬の遠吠えです(爆死)。
 ともかく、新しい才能の誕生を心から祝い、今後の活躍を祈りたいと思います。