「沈黙博物館」小川 洋子

沈黙博物館
沈黙博物館
posted with 簡単リンクくん at 2006. 2.28
小川 洋子著
筑摩書房 (2004.6)
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人の肉体の存在した証、形見を収集する博物館と、それを作り上げんとする老婆と博物館技師、その周囲の人々の物語。「形見」として収集される品々はどれもグロテスクで、その死に様までもが克明に記録と保存をされていく。きわめておぞましく、ネガティブで陰気なテーマの物語のはずなのに、それでも全体的に何故か透明で美しいお話に仕上がってるのがとても不思議。おそらく小川さんは、死もまた人の営みの一部、世界を構築する欠かせない部品であり、そういったものを含めて世界は美しいと信じておられるのだろう。
それにしても、人の死を収集するという作業の、なんと空虚なこと。人は必ず死に、いつか忘れ去られていく。そのことを眼前に突きつけられながら日々を生きると言うことは、相当にしんどく、自らの存在の危うさ、無力感にさいなまれなる仕事だと思うのだが。だがしかし、この作業こそは、その人の生の虚無なること、死して消えゆく人の定めに対する、ささやかな抵抗なのかも知れない。
ともかく、悲しく寂しくなるほどに美しく、冷たく透き通った物語でした。なんともいえない、不思議な読後感。